レスキューされた。死にそうだった

「やばいよ。どうしよう」逃げ場のない岩の上に打ち上げられた。しかも5人も。波が届かないスペースは5人分もないし大きな波が来る度にさらわれそうになる。怯えながらも頭を振り絞ってどうやったらこの状況を打開できるかと考える。その間にも満潮の時刻に近づいて波が高くなり、時間とともに波にさらわれそうになる回数が増える。このままじゃみんな死んでしまう。でも妙案は浮かばない…

こうなったのは先週の土曜日。いつものメンバーでセルフダイビングをしていた。もぐっている途中でリーダーを見失ってしまい、しかも波で生じる泡でなにも見えなくなったので仕方なく浮上してみるとあまり見たくない光景が広がっていた。女性陣二人が岩に打ちつけられて、岩の上で波にされるがままにひきずられている。とても痛々しい。打ちつけられている岩の上には少し避難できる部分があるが波に引きずられてなかなかたどり着けない。しかもそこにたどり着いたとしても波は足下まで届いているし逃げ場は一見なさそうだ。

と、そこにリーダーも駆け寄って上陸。実際は泳いでだけれどもね。リーダーも波に打ちつけられてとても危険な状況にみえる。波にさらわれそうな二人を必死に支えて、なんとかぎりぎり波を避けられる場所まで避難した。

ここでまだ海に残されているのは、俺ともう一人、リーダーと同じマスターダイバーのライセンスを持つベテランK。俺もそのKも結構パニックになっていたんだと今は思う。「どうするよ」俺はKに相談したら「とりあえず俺らもあそこに上陸しよう。裏にエグジットポイントがあるんだよ」という。たしかにリーダーもあの岩の上に上陸したし、実際そうなんだと思った。普通に考えればそんなことないとわかると思うけど、現場にいるとそう思ってしまうのよ。

俺もKも頑張って岩に上陸。もちろん俺らも例外無く岩に打ちつけられた。みんながいる場所までなんとか避難してみると、ただ打ち上げられたらしく、エグジットポイントでは無いことを知る。しかも、俺は無傷だったけどKは腕から結構な血を流している。グローブをして、長袖のウェットスーツを着込んだ俺は無傷だったけど、Kは半そでのウェットスーツ。この違いがかなりの防御力の差になるらしい。

さらに、俺とK以外は岩に打ちつけられたせいでフィンを無くしていた。知らないかも知れないけれども、海の中でフィンが無いと本当に無力で前にも進めない。だからフィンがないのは致命的なんです。俺もこの一件でこのことを知ったんだけどね。

とここで一番最初の場面になるわけです。

満潮に近づいてきて今まで安全だった場所にいても、波にさらわれそうになる。どうしようか考えていると、シュノーケルをした人が岩の周りまで泳いできた。最初は遊んでる人なのかと思った。今考えると相当バカなことを考えていたと思う。なにやら言っているが、波の音に消されて全く聞こえない。やっとのことで聞き取るとこっちに来れないかと話しているようだ。実は助けに来てくれていたらしい。遊んでるとか思ってごめんなさい。

いや無理ですよ。そこに行くには白波が打ちつけている一番危険なところを通らなきゃ行けないわけで…と思ったらリーダー飛び込みました。びっくりです。引き波のタイミングで一気に。失敗した時のリスクは・・・死かもしれないわけです。なかなかそんな冒険はできません。他のみんなも同じ考えだったらしく、海に身を投げ出すことはできませんでしたが、リーダーはうまく引き波に乗って安全なポイントまでたどりついたようで、他の人に連れられて岸の方まで泳いでいきます。

残されたのは4人。よくよく見てみると荷物を全て捨てれば岩を登れそうです。Kに「ここを上って上へ逃げよう」と打診してみましたが、「失敗して海に飲み込まれたときに、フィンやレギュレータがない状態だと致命的になるから避けよう」と言われてしまいました。確かにそうです。でも命綱もありませんし、どっちが生き残れる確立が高いかなんてわかりません。どっちにしても危険なんですよね

自分の意見に確信を持てなかったし、女性陣が登れるとも思わなかったので、結局岩を登ることをあきらめました。だんだんと波が高くなってきて何度となく波にさらわれそうになり、時間だけが過ぎていきます。本当、このときはすごい頭の中がマヒ状態になっていたかも。なにを思ったのか、早く飛び込まないといけないかなとか、機材を全て捨てて岩を登ろうとか、波にのまれても俺は無傷で余裕だなとか、わけわからないことがぐるぐると頭の中を回っています。

と、そこへ、岩の上から助けがきました。喜ぶところなんでしょうけどもう頭が麻痺していたのかなにも感じません。とりあえず、女性陣から引き上げてもらいます。上に引き上げてもらう直前は全ての装備をはずして上がるので、波に連れ去られたらもうおしまいです。本当に死が待つだけなどと変に冷静になってる。

残るはKと俺のみ。どちらが先に登るか考える。マスターダイバーのKとぺーぺーの俺。でも場所的に俺の方が少しだけ高いところにいたので迷いました。ここら辺、自分て奴は人間小さいと思います。その状況だったらマスターダイバーかどうかなんて関係ないですよね…連れ去られたら終わりなんだから…数秒そんな問答を頭の中で繰り返して、結局先に行ってもらうことにしました。

Kが全ての機材をはずしたとき、大きな波がきたので「波が来た!しがみついて」と叫んでいました。さらわれそうになりながらも必死にこらえるK。やっぱりどんどん波が高くなってきてます。Kはなんとか上がれたようで、後は自分だけです。

こんな場面を観たことがあります。ポスターでね。ロッククライマーがかっこ良く登っていたようなきがする。そういえば俺はクライミングやったことがあることを思いだし、ロッククライミングの要領で岩に指をかけ…なんてことはできません。まず掴むところなんかないし、もし落ちたらもう生きて帰ることはできないかもしれないから。要はへっぴり腰で岩にへばりつくように登りました。でもなぜかクライミングを思い出していたんです。頭おかしいんじゃないかと…

無事岩の上に着いたらもうそこは安全地帯のようです。皆無口。よく見てみるとKは血だらけ、女性一人は指が痛いと言っています。後で聞いたのですが折れているっぽいです。はやく医者に診てもらった方が良いですよ。さすがに緊張して力を使っていたのか恐怖からかしばらくの間、足がガクガクしていました。

エントリーポイントまで行き、海から救助されたリーダーと合流したところ、彼も手に傷がいっぱいできていました。しかも、ウェットもやぶれているし…まぁそれでもみんな生還できてよかった。あと一つ心配だったのは休憩してからまた潜りに行こうと言うんじゃないかとびくびくしていたんですが、さすがにそれはなかったですね。安心しました。

しかし、本当に生きてて良かった。海で救助されるのは2回目です。運がよいのか悪いのかよくわかりません。こんな壮絶なハプニングがあったのにも関わらず、帰りには次どこに行こうかなどと話していました。来週ももぐりにいってきます。次は俺よりも初心者がいるんで安全にいきましょう。ちなみに次はセルフダイビングじゃないですよ。